トレーディングカードゲーム(TCG)市場が急成長を続けています。特にトレカの海外需要の高まりを筆頭に、日本発のトレカが世界中で注目され、国内市場への影響も顕著になっています。本記事では、海外需要が国内トレカ市場に与える影響を、最新の市場データとともに解説します。
拡大するトレカ市場の現状
日本玩具協会の調査によると、2022年度のカードゲーム・トレーディングカード市場規模は2,349億円に達し、2018年度から大幅な成長を遂げています。この市場拡大を牽引しているのが、「ポケモンカードゲーム(ポケカ)」「遊戯王OCG」「マジック:ザ・ギャザリング(MTG)」「ONE PIECEカードゲーム」などの主要TCGブランドです。
特にポケカの市場規模は2023年に過去最高の1337億円を記録し、他の主要TCG8種の合計に匹敵する規模にまで成長しました。ONE PIECEカードゲームも2022年から3倍の成長を見せるなど、各ブランドが好調を維持しています。
加えて、デジタル領域への展開も進んでいます。2024年10月にリリースされたポケカのスマホアプリPokémon TCG Pocket(ポケポケ)は、わずか1ヵ月で世界累計3300万ダウンロード以上、収益2億ドル(約300億円)を達成。「遊戯王」や「MTG」も独自のデジタルプラットフォームを展開し、フィジカルカードとデジタルコンテンツの両輪による市場拡大が続いています。

各トレカブランドの海外展開と需要の特徴
ポケモンカード:世界的な人気コンテンツとしての強み
ポケモンカードは海外市場での需要が特に顕著で、現在89以上の国と地域で公式販売されています。世界累計製造枚数は648億枚以上に達し、国境を越えた人気コンテンツとしての地位を確立しています。国際マーケットでは特にリザードンやピカチュウなどの人気キャラクターのカードが高値で取引され、希少カードは数百万円から数億円の価格がつくケースもあります。
また、ポケカの国際的な人気の高まりにより、海外セレブやYouTuberがコレクション公開をするなど、投資対象としての側面も強くなっています。グローバル市場では特に鑑定済みカードの価値が高く評価され、PSA10(最高評価)のカードは未鑑定カードと比較して数倍から数十倍の価格差がつくことも珍しくありません。
遊戯王:アジア圏での高い人気
遊戯王OCGは日本、アジア圏を中心に強い需要があります。特に韓国、台湾、香港などでは熱心なファン層が形成されており、日本で先行発売されるカードは海外プレイヤーからも注目を集めています。
遊戯王は競技性の高さから、対戦用デッキを組むためのカード需要も高く、強力なカードは国境を越えた需要が生まれます。また、初期の希少カードを中心に、コレクション目的の需要も拡大しています。
マジック:ザ・ギャザリング:長い歴史と国際的なプレイヤー基盤
MTGは1993年から続く世界最古のTCGの一つであり、グローバルなプレイヤー基盤を持っています。欧米を中心に強い需要があり、国際大会の規模も他のTCGを上回ります。
投資対象としても注目されており、特に「リザーブリスト」(再録されないことが約束されたカードリスト)に含まれるカードは希少性から高騰を続けています。日本語版カードも海外コレクターの間で人気があり、特に限定イラストのカードは「日本語版プレミアム」として高値で取引されるケースがあります。
ONE PIECEカードゲーム:急成長する新興ブランド
2022年に本格展開を開始した比較的新しいTCGながら、「ONE PIECE」という世界的に人気のあるキャラクターやストーリーの強みを生かして急成長しています。特に日本と欧米での人気が高く、限定プロモーションカードは発売直後から国際的に取引されています。
新興TCGならではの勢いを持ち、近年ではポケモンカードの海外人気と並んで国際マーケットからの注目度が高まっているブランドです。

ポケモンカード海外人気に見る市場変化の最前線
特にポケモンカードへの海外からの注目度は、日本のトレカ市場の変化を象徴する存在となっています。その特徴を詳しく見ていきましょう。
国際的な価格差と流通構造の変化
ポケカの世界的な人気の高まりにより、国内外の価格差が生まれています。特に日本版カードの中には、海外で高額取引されるものが増えており、この価格差を狙った国際的なトレーディングも活発化しています。
例えば2021年に発売された「イーブイヒーローズ」に収録されたブラッキーVMAX SAは、日本国内では発売当初2万円程度で取引されていましたが、海外コレクターからの需要増加により現在では30万円以上の価値がつくようになりました。このような海外市場の影響による価格変動は他のトレカにも波及しつつあります。
グレーディング(鑑定)文化の浸透
ポケモンカードの国際的な需要拡大とともに、カードの状態を評価する鑑定サービスの利用も増加しています。PSA(Professional Sports Authenticator)やBGS(Beckett Grading Services)などの海外鑑定会社が提供するグレーディングサービスが日本国内でも普及し、鑑定済みカードの流通量が増えています。
この傾向はポケカの国際マーケットでの人気から始まりましたが、近年では遊戯王やONE PIECEカードゲームなど他のTCGにも広がりつつあります。鑑定を受けることで価値の保証や国際取引の円滑化につながるため、高額カードを中心に鑑定文化が浸透しています。
海外需要が国内市場に与える影響
トレカへの海外需要の高まりは、日本国内の市場にさまざまな影響を与えています。
価格高騰と品薄状態
ポケモンカードをはじめとする日本のトレカへの海外からの需要増加により、国内でも人気のカードは価格が高騰する傾向にあります。海外のコレクターやディーラーが日本のカードを買い付ける動きが活発化し、一部のカードやパックは国内で入手困難になっています。
例えば、新弾発売時に店頭に長蛇の列ができる現象や、一部の人気商品が即日完売する状況は、国内需要だけでなく国際マーケットからの注目度の高さも大きな要因と考えられています。MTGの日本限定アートカードや、遊戯王の一部レアカードも同様の影響を受けています。
セカンダリーマーケットの拡大
トレカはレギュレーション(使用可能なカードの規定)変更や絶版により、セカンダリー(中古)市場が発達しやすい特性を持っています。国際的な人気の高まりにより、国内のセカンダリーマーケットも活性化し、カードショップや個人間取引の規模が拡大しています。
トレカ専門の買取・販売店舗は2019年から2024年にかけて全国で約1.5倍に増加しており、オンライン取引プラットフォームでのトレカ取引額も年々増加しています。ポケカの海外市場での評価向上をはじめとする国際的な需要の高まりが、国内流通市場の拡大を支えています。
国内プレイヤーの遊び方への影響
海外需要による価格高騰は、国内プレイヤーの遊び方にも影響を与えています。特に対戦用のデッキを組むために必要なカードが高騰すると、新規プレイヤーの参入障壁が高くなるという懸念があります。
この課題に対応するため、各メーカーは構築済みデッキの販売やレギュレーション調整などの対策を講じています。また、プレイヤー間でも不要カードの交換会やカードプールの共有など、コミュニティ内での相互支援の動きも見られます。
トレカの国際流通とコレクション文化
国際的な取引プラットフォームの台頭
eBay、TCGPlayer、Cardmarketなどの国際的な取引プラットフォームの普及により、国境を越えたカード取引が容易になりました。これらのプラットフォームでは日本のトレカも多数出品されており、国内相場より高値で海外バイヤーに落札されるケースが増えています。
特にポケカの国際市場での評価の影響から、こうした海外取引サイトでの価格動向が日本国内の相場に先行して影響を与える現象も見られます。海外で人気が高まったカードは、数週間〜数ヶ月後に日本国内でも価格が上昇する傾向があり、国際市場の動向を監視するトレーダーも増加しています。
為替変動の影響
円相場の変動も、トレカの国際流通に大きな影響を与えています。円安ドル高が進行した2022年~2024年にかけては、海外バイヤーにとって日本のトレカがより購入しやすい価格になったことで、国内から海外へのカード流出が加速しました。
今後も為替変動はトレカの国際流通と価格形成に影響を与える重要な要因として注目されています。
コレクション文化の国際的な広がり
トレカをゲームとしてだけでなく、コレクションアイテムとして収集する文化は世界中に広がっています。特にポケモンカードの海外需要の高まりとともに、保管方法や展示方法についての情報交換も国際的に行われるようになりました。
高額カード用の耐UV・防湿ケースや、温度・湿度管理された専用収納ボックスなど、コレクションの価値を維持するための周辺市場も拡大しています。このようなコレクション文化の広がりは、トレカ市場全体の底上げにつながっているといえるでしょう。
今後のトレカ市場展望とビジネスチャンス
コレクション市場の成熟と投資対象化
トレカを投資対象として見る視点は今後も広がると予想されます。特にポケモンカードの国際的な人気の高まりは、トレカ全般の資産価値に対する認識を変えつつあります。
2026年にはポケモン30周年、遊戯王25周年など、主要TCGの周年イベントが予定されており、これらに連動した記念商品の発売や特別イベントが市場を活性化させると見られています。長期的な視点でのコレクション構築や、希少カードへの投資に注目が集まるでしょう。
新興市場の開拓
現在のポケモンカードの海外需要の中心は欧米、東アジアですが、中南米、東南アジア、中東などの新興市場でもトレカ人気が徐々に高まっています。これらの地域では経済成長とともにホビー市場も拡大傾向にあり、今後の成長ポテンシャルが期待されています。
海外展開を視野に入れたローカライズ戦略や、各地域の文化に合わせたマーケティングアプローチが重要になるでしょう。
まとめ
トレーディングカード市場はポケモンカードの海外での人気をはじめとするグローバルな需要の高まりにより、大きく変化しています。価格高騰や流通構造の変化など課題も見られる一方で、国際的なコミュニティ形成やデジタル展開など新たな可能性も広がっています。
今後も国内外の需要バランスや市場動向を注視しながら、持続可能なトレカ文化の発展に向けた取り組みが求められるでしょう。日本発のトレカが世界中で愛され、その人気が国内市場にも影響を与えるという循環は、グローバル化するコンテンツビジネスの一つの象徴とも言えます。